原価5,000万の家

100棟近い住宅の設計をして来ましたが、一番思い出に残るのがM邸です。

付き合いのあった小さなハウスビルダーの社長Mさんが、自宅を建替えるということで、相談されました。10年ほど前です。


当時のMさんの会社は、地域密着型営業で、コンスタントに住宅受注を図り、大変調子が良かったのです。


これ幸いと、普段はなかなか出来ないことを設計に盛り込みました。

55坪ぐらいの住宅でしたが、どんどん建築費が膨らんでいきました。


最終的には、工事の原価ベースで、5,000万円を超えてしまいました。
普通に建てたら、7,000万円ぐらいでしょうか。


工期がおよそ5ヶ月と通常の倍近くかかりました。

中でも、8畳の和室には時間とお金がかかりました。

和室だけで材料費1,000万円近くになり、大工さんは和室の工事を終えるのに1ヶ月かかっていました。


驚いたのは、丁寧に作られた和室の完成度です。

L型の広縁が付いた和室ですので、床の間以外の3面は開口部です。
障子が合計11枚入りました。

その11枚の障子の寸法が、すべてまったく同じだったことです。


通常は、施行誤差がありますので、障子の割付をすると、各面で微妙に寸法が違うものですが、まったく同じ寸法に割付されました。

建具屋さんもビックリの事でした。



この住宅の最大のテーマは
『和室でくつろぎながら、庭を眺めて酒を飲む』
でしたので、和室と庭に時間と費用がかけられました。

庭は別に1,500万円ぐらいかかったそうです。
(造園はMさんが直接庭師と相談しながら造っていました)



仕上がりは満足のいくもので、設計者としての満足感も充分にある住まいでした。

普段は、設計者としては必ず満足の出来ないものが残るものです。



こうして、完成しておよそ2年が経ち、
Mさんの会社は経営破たんに陥りました。


自慢の住まいは「差押・競売」と、こういう時の手続きは極めて事務的に進みます。

二度と中へ入ることの出来ない住宅となってしまいました。



それから、半年ほど経ったある日、付き合いのある不動産屋さんから電話がありました。


「住宅金融公庫の中古住宅融資の物件調査を頼みます」ということでした。

当時私は、住宅金融公庫の登録設計事務所として、中古住宅調査の仕事もしていましたので、「毎度さんです、ところで物件はどんな物件?」


「ありゃ! これは、M邸ではないですか!」


M邸は、奇妙な縁で、知り合いの不動産屋さんが落札して、新たな住まいのご主人様を見つけてくれたのです。


奇しくも、再度M邸の中に入ることが出来「これが見納めだな〜」と
例の8畳の和室に座り込み、調査をすることも忘れて、しばし庭を眺めていました。

広縁に使ったイチイ(オンコ松)の巾木は、狂いもなく相変わらずピシっと納まっていました。


Mさんは、今どうしているのでしょう?



追記

この記事は、以前にメルマガで配信した記事を掲載したものです。
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posted by イソップ at 21:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 住まいの履歴書
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